店に到着すると、その店はAくんの顔見知りの店だったのか、店の店長らしき人がわざわざ厨房から出てきてAくんに挨拶をし、店の奥の特別席のような所に通された。
4人がけテーブル席に腰を下ろして、少し辺りを見渡す。
店の壁はレンガ風の壁で、壁には洋風の小さな絵が飾ってあり、所々に観葉植物がおいてあるオシャレなレストランと言う感じだった。
店内も落ち着いた雰囲気で、特に僕たちが通された席は店の奥の半個室のような席なので、他のお客さんとは目が合わず、ガラス張りの厨房で料理をしている店長ともう一人のシェフの人だけが見える様になっている。
実際こんなオシャレなお店に来るのは彼女との特別な日以外は来た事が無いと心に思った。
Aくん:素敵なレストランでしょ?ここ僕大好きなんだ。
未来 :うん、すごく素敵な店だね。
Aくんはまた笑顔で僕に微笑んだ。
同性なのに、その笑顔に何故か少しドキッとしたのを今でも覚えている。
注文を取りにきた店長に、Aくんは赤ワインのボトルと料理を頼んだ。
すぐに店長が赤ワインのボトルとグラスを2つ運んできて、2人のグラスにそれぞれワインを注ぐ。
僕はワインの味は正直あまり分からなかったが、そのワインは何故かすごく美味しく感じた。
料理が出てくると、Aくんが小皿に料理を食べ易い量で取り分けて僕にそれを渡した。
盛りつけ方もキレイで、きっと幼い頃からマナーを学んできた良い所の人なんだろうなとその時感じた。
Aくん:どお?美味しい?
未来 :うん、すごく美味しいね。
その言葉にまた笑顔で僕に微笑んだ。
食事を口に運ぶ姿も優雅で、何をやっても絵になると心で思った。
食事が一通り済んだ頃にはワインのボトルはもう空いていた。
もうすでにかなり酔いがまわっていたが、Aくんは何も言わずに別のワインボトルを注文した。
未来 :もう一本飲むの!?
Aくん:だって、せっかく未来に会えたんだもん、2人の出会いに乾杯しなきゃね!
無邪気な笑顔でワイングラスを片手に僕に微笑む。
その笑顔は本当に優しくて、心が暖まるような気持ちにさせた。
テーブルにはワインボトルと2人のワイングラスだけになり、食事も一段落した頃。
Aくん:ねえ、未来はなんであーいうチャットに来たの?
僕は以前からAくんに話をしていた彼女との失恋話や、同性であれば気持ちを理解してくれると思った事を話した。
Aくん:そうだったんだね、じゃあ実際には同性の人が好きだからとかそう言う訳じゃないんだ?
未来 :そうだね
Aくん:まったく興味ないの?
未来 :恋愛感情とかはまったく湧かないし、同性の裸体をみても淫猥な気持ちを感じる事もないよ。
Aくん:ふーん
Aくんは少し怪しんだ感じの笑みを浮かべて僕を見ていた。
さっきまでそんな話は一切せず、いつもチャットで話をするような映画とか本とかアニメとかの趣味の話で盛り上がっていたので、急な話の展開に少し戸惑いを感じていた。
Aくん:でも、僕と会う事になって、何か新しい事が始まるんじゃないかとか思わなかった?
僕はAくんの言っている意味が良く分からなかったが、その時はネットで出来た始めての友達と言う事だと思い、素直にその質問に頷いた。
Aくん:未来って、かわいいね
心臓の鼓動が一気にあがったのがわかった。
いままで生きてきた中で、この何とも言えない衝撃を感じた事はなかった。
照れている?恥ずかしい?嬉しい?よくわからなかったが、確かに鼓動が高鳴っていた。
Aくん:未来は僕が同性が好きだと思う?
未来 :ちがうの?
Aくん:うーん、厳密に言えば違うのかな
未来 :厳密に言えば?
Aくん:異性同士結婚するのは愛し合ってるからでしょ?そうではないと言う事かな。
未来 :じゃあどう言うの?
Aくん:うーん、難しいなwなんて説明すれば良いんだろう。
未来 :じゃあAくんは女性が好きなの?男性が好きなの?
ここでさっきまで笑顔だったAくんの笑顔が消え、急に悲しい様な、諦めた様な表情に変わった。
Aくん:変な言い方かもしれないけど、僕は選べなかったんだ
未来 :選べなかった?
Aくん:未来は普通に異性に恋をして失恋して傷ついて、そして色々な経緯を辿って、自分で選んで僕と出逢った。
未来 :うん
Aくん:でも、僕はそうじゃなかったって事
それを話したタイミングで、Aくんはグラスに半分以上入っていたワインを一気に飲み干し、さらにグラスにワインを注いだ。
Aくんが言っていた”選べなかった”と言う意味が僕にはよく理解できなかったが、Aくんの今までの明るい表情から一変した悲しい表情から、何か辛い思い出があったのではと推測した。
未来 :Aくんは僕の話を沢山聞いてくれたし、本当にAくんに感謝してる、だから僕が出来る事なら言ってほしいな
Aくん;本当に?
未来 :うん、もし話して少しでも楽になるなら嬉しいし、何か出来るのであればしてあげたい。
Aくん:ありがとう
Aくんの顔に少し笑顔が戻った気がした。
少し目が赤くなっていた気がしたが、それがワインによる酔いのせいなのかどうかは分からなかった。
そして、Aくんはまた少し寂しそうな顔をして俯きながら僕に言った。
Aくん:未来が僕の事を心配してくれるのは凄く嬉しいけど・・・
未来 :けど?
Aくん:話をしたらきっと未来は僕の事を軽蔑してしまうかもしれない、それは嫌なんだ。
未来 :そんな事ないよ、僕も彼女との失恋話で軽蔑される様な事沢山話したけど、Aくんはちゃんと聞いてくれたよ?
Aくん:・・・そうだけど
未来 :今日初めて会ったばかりだけど、僕はAくんの為ならなんでも協力するよ
その時、Aくんが真剣な顔で僕の顔をみた。
何か決心したような、そんな感じの目だった。
Aくん:未来はさ、家族の事が好き?
未来 :え?好きだけど、なんで?
Aくん:僕は、家族の事が嫌いだし、もう何年もあってないんだ。
家庭内の問題はデリケートな事が多いと思い、僕はAくんが口を開くのを待った。
そして、Aくんがグラスワインを飲み干して、新しいワインをグラスに注ぎ、一口飲んでからまた話し始めた。
Aくん:僕は日本人の母とフランス人の父の間に生まれたんだ
やっぱりハーフだったんだと思った。
Aくん:でも、僕が幼い頃に両親が離婚して、僕と弟は母親に引き取られたんだ。
彼の言葉から少し寂しさを感じた。
一番両親の愛を感じたい時期に彼は感じる事が出来なかったのだと思った。
外国人との結婚は文化の違いからか、結婚生活を始めてからの様々な考え方の違いから離婚率があがる事をどこかで聞いた気がした。
Aくん:そして、僕が小学校5年生の時に僕の母が日本人の人と再婚して、僕らは家族として一緒の家に住む事になったんだ。
僕は静かに頷いた。
Aくん:最初は嬉しかった、また父親が出来て、家も賑やかになって弟も喜んでいたし、新しいお義父さんも最初は優しい人だった。
ここの”最初は”という言葉にひっかかった。
すぐに頭をよぎったのは家庭内暴力やギャンブルにはまって家中が借金を抱えたなどの話だと勝手に推測した。
Aくん:しばらくしたある日の時、母親が仕事の関係で出張に出かけて、1週間いなかった時があったんだ。
未来 :お義父さんは?
Aくん:いたよ
少し嫌な予感がした。
母親の前では良いお義父さんでも、いなくなったときに急変すると言う話をどこかで聞いた事がある。
未来 :それで、どうしたの。
Aくん:いつも通りだったよ、僕らが学校から帰って来る頃にお義父さんも帰ってきて、僕と弟に夕飯を作ってくれた。
未来 :へぇー、良いお義父さんだね。
Aくんは何も言わなかった。
Aくん:夕飯が終わってテレビを一緒にみて、みんなで一緒にお風呂に入ろうと言われた。
未来 :うん
Aくん:一緒にお風呂に入って頭と身体も洗ってもらって、みんなで一緒にお風呂に入った。
よくある幸せな家庭だと思った。
さっきの僕の推測は思い違いだと思い始めた。
Aくん:お風呂から出て頭と身体を乾かしたら、もう寝る時間だった。
未来 :うん
Aくん:僕と弟はお義父さんにおやすみの挨拶をして、それぞれ自分達の部屋に行ってベットに入った。
未来 :うん
Aくん:そして、しばらくしたら僕は眠りについたんだ
何もない、本当に普通の幸せな家庭だと思った。
僕自身も小さい時は母が食事を作ってくれて、父と一緒にお風呂に入った記憶がある。
そして、また彼は語りだす。
Aくん:僕が眠りについた頃、急に手首と足首に痛みを感じて、同時に寒気を感じたんだ
未来 :?
Aくん:気がつくと僕は・・・
中々次の言葉がAくんから出てこなかった。
彼のワイングラスをもつ手はかすかに震えていた。
そして、声を絞り出す様に彼は言った。
Aくん:気がつくと僕は、裸で両手首を手錠でベットに固定されて、両股を開く形でベッドに紐で足を固定されてたんだ。
何を言っているのか良く分からなかった。
Aくん:そして、状況がよくわからないまま上を見ると、真っ暗の部屋の中にいたんだ
未来 :誰が?
Aくん:・・・・
急に表情が険しくなった。
そして、彼は言った。
Aくん:全裸で男根を盛り立たせて笑みを浮かべている義理の父親がそこにいたんだ。
未来 :え?どう言う事?
A:ぼくは・・・
”小学校5年生の頃から高校を卒業するまでの間、ずっと義理の父親に性的虐待を受けていたんだ”
まったく予想だにしなかった言葉が彼の口から語られた。
そして彼は、幼少期の頃に受けた虐待のすべてを僕に語りだした。
つづく
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